『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』 金子哲雄 [読書]
昨年は多くの有名人が亡くなられたけど、個人的に一番ショックだったのが、流通ジャーナリストの金子哲雄さんだった。テレビタレントとして見た場合、その役割はもちろんスター的なものではなく、いわゆる「オーラがある」だとかそういった存在感を放つキャラクターではなかったけども、突然、テレビで金子哲雄さんを見れなくなった時、その喪失感は大きかった。それだけ、自然と親しみを感じるキャラクターだったんだと思う。また、不治の病に侵されながらもそれを隠しながらもお仕事を続け、さらには自身の葬儀の段取りまで生前に準備していたことを報道で知り、見事な死に様と死生観に尊敬の念を抱いた。
この『僕の死にかた エンディングダイアリー500日』は、主に金子哲雄さんが"肺カルチノイド"という病であることを宣告されてから、亡くなる寸前までの経緯が記されている。"肺カルチノイド"という非常に珍しい病気に侵され、「いつ死んでもおかしくない」と宣告された自身の闘病体験が世の役に立てばとの思いで、亡くなる直前の一ヶ月ほどでまとめたとのことだ。本の終盤の文章は断片的で、金子哲雄さんの意識が断片的になってきてることがうかがえる。文字通り「死ぬまで大好きな仕事をしたい」という思いで「生涯無休」を貫いた。そして、その仕事は「人の喜ぶ顔が見たい」という動機の上に成り立っているというから、「どうしてこんな素敵な方がこんなに早く亡くなってしまわれたのか」と改めて悔やまれる。
ただ、少し残念なのは、金子哲雄さんがこの本を通してされた医療に対する問題提起が中途半端な印象を受ける。無論、金子哲雄さんが最後の力を振り絞って執筆されたこの本にケチをつけるつもりなど、毛頭ない。金子哲雄さんが元気な状態で、しっかりと問題を精査・調査し、語られたなら、どんな内容になっただろう。前提となる状況から矛盾している(元気な状態での終末期医療などあり得ない)し、叶わないことだけれど、ただただそれを読んでみたかった。
『聞く力』 阿川佐和子 [読書]
去年から土曜日の朝に『サワコの朝』という対談番組をやっている阿川さん。土曜日の朝早くに目が覚めるとついつい見てしまう(と言ってる端から始まった)のですが、何ともまぁソフトな人当たりのようで、「うまい具合に切り込んでいくなぁ」と感心します。スパっと切るという感じではなくて、すらぁっと切るような柔らかさ。対談相手もリラックスして話しやすそうに見えます。また、阿川佐和子と言えば、『TVタックル』のアシスタントとしても知られていますが、ヒートアップし過ぎた論争を、ピシっとシャットダウンしたり、自然に話の流れを変えたりとなかなか重要な役どころ。また、僕は知らなかったのですが、雑誌で対談企画をやってらっしゃり、900回を超えるインタビュー経験があるそうです。この『聞く力』では、インタビューの観点から、いかに対談相手からおもしろい話、重要な話を聞き出すかというコツについて書かれています。
『聞く力』に書かれている内容は、インタビューという仕事の経験から得られた聞き上手になるコツではありますが、仕事などでヒアリングをする際に必要なテクニックが満載で、僕もそのあたりを期待して読みました。中には一般的に知られているようなコツも書かれていますが、阿川佐和子さんがインタビュー、私生活を通して経験したことに基づいて書かれているので、分かりやすく、説得力があります。
個人的なことを言うと、IT業界に転職して3ヶ月、新入社員として教育される側として思うところは、実演・実体験が欠如し、テクニックだけ先行しているような指導は意味がないと痛感しています。特にIT業界は若い業界なので、そういったテクニック先行の頭でっかちなところがあるようで…。「○○の法則」みたいな、たいそうな名前をつけたテクニックをいけしゃあしゃあと解説されても、「○○の法則」という名前が気になって、中身が入ってきません。
名前なんか付けなくても、「こういう時はこうする」、「こういう時はこう考える」という風に、「やって見せて、やらせてみる」のが良いと思うんですが。前述のような頭でっかちな解説だと、いかにも受け売りな感じがして、「今の話のどこにあんたの"すごさ"があるんだ?」、「それならあんたに指導されなくても、本でも読んで勉強しますけど?」となってしまいます。実際、こうして本読んで勉強してますし(笑)社会人ともなるとお互いがいい年齢なので、教育する側、される側の信頼関係が特に大事です。「やって見せられて」、「あぁ、この人すごいな見習おう」となるのではないのでしょうか。おまけに、そんな人に限って、たいしたテクニックでもないのに自慢げに語ります。そんな人なので、たいがいがそもそも僕が悩んでいるところとは見当違いな指導をします。教育側の実体もなければ、被教育側の実体も見ていない。信頼関係が欠如した教育はむしろ害だなと思う今日この頃です。
すいません…。ついつい愚痴になってしまいましたが(笑)、ここで言いたかったのは、『聞く力』のメリットとして、阿川佐和子が書いているので、素直に中身が入ってくるという側面があるということ。もちろん、阿川佐和子を嫌いな方には逆効果でしょうが…。やはり、少しでも自分が「すごいな」と思っている人が実体験に基づいたことを書いていると、説得力が違います。それ以前に、「この人すごいな」と素直に思わせるには人柄もあるんでしょうけどね。ビジネスにおけるカリスマ性っていうのは、そういうところなのかなと思います。
クリックお願いします。
『重力とは何か -アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る-』 大栗 博司 [読書]
科学系の読み物が好きです。特に宇宙の話が好きで、よく読みます。難しくて、ほとんど理解できていないんですけどね(笑)
この手の本は、最新の理論に至るまでの経緯などのおさらい、常識的に備えている知識について詳しく解説するところから入るため、序盤は分かりやすいのですが、ページが進むにつれて、どんどん難しくなっていきます。僕の場合、相対性理論のあたりから、頭がついていかなくなります。理解できていないのに、さらにそれをベースに話が進むので、さっぱり分からなくなってきます。それでも、内容をファジーに捉えながら、読み進めます。分からなくても、なんかおもしろいんですよね。
宇宙物理学は、まず思考実験で成り立つ、あるいは数学的に裏打ちさらた理論があり、その理論を観測的に実証するというプロセスをたどります。つまり、最新の理論といっても、仮説と言えます。その仮説のあり方が、意外なことに哲学的な要素が強いのです。実際、思考実験といわれる実験は極めて哲学的だし、宇宙物理学のある理論が哲学界に影響することもあるんだとか。あのアインシュタインですら、相対性理論から導き出される「宇宙が膨張する」という結果を信じることができず、「宇宙項」を方程式に追加することで、その結果を回避していますが、その後、「宇宙は膨張する」ということは、観測上でも明らかにされており、アインシュタインもそれを認めています。それだけ宇宙物理学は人の信念にも通じているということがよく分かるエピソードですね。
最近、ヒッグス粒子が発見されたと大きなニュースになりましたが、自分達の存在する宇宙に対する認識がどんどんと新しくなっていきます。そういうところが、読んでいてわくわくするので、おもしろいんでしょうね。
重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)
- 作者: 大栗 博司
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2012/05/29
- メディア: 新書
クリックお願いします!!
本・書籍 ブログランキングへ
『Googleの正体』 牧野武文 [読書]
久々に新書を読んだ。Web制作の仕事をしているので、仕事の勉強も兼ねて『Googleの正体』。実際、「検索エンジンやら何やら色々やってるけど、どこで利益を得てるの?」って思っている人は多いだろうし、うまいところに目をつけたなという感がある。『Googleの正体』というタイトルも抜け目ない(笑)
『Googleの正体』を読んだことに影響された訳ではなく、以前から個人的にはGoogleは絶妙なバランス感の上に成り立っていると考えていた。プライバシーの問題がよく取り沙汰されるが、それを有効活用しているからこそ、さほど敵視されることもない。 結局のところ、利用者にとって有用であれば、利用者も多少の不自由は目をつぶる。Googleはそれを理解していて、絶妙なバランス感を以って、今のスタンスを貫いている。『Googleの正体』では、Googleが何をしていて、何をしようとしているのか?に焦点があてられていて、僕の思うそのバランス感覚が成り立つ過程についても『Googleの正体』を読んで納得がいった。
2010年初頭に発売された本なので、情報はやや古いし、今頃読んだ僕が言うのもなんだが、Web関連の仕事をしている人は業界の常識として、読んでおいた方が良いし、Webに関係のない職の人でも、今や誰もが関わりを持っていると言っても過言ではないGoogleについての雑学は、何気ない会話の役に立つだろう。
クリックお願いします!!
本・書籍 ブログランキングへ
『城の崎にて・小僧の神様』 志賀直哉 [読書]
あまり古い小説は読まない。でも、それは何を読めばいいのか分からないからであって、興味がない訳ではない。そんな読者に向けてかどうかは知らないが、新装版で攻勢をしかける出版社。いい感じのカバーにつられ、「興味もあるし、ちょうどいいか」と軽いのりで買ってしまった。こないだ読んだ『トム・ソーヤーの冒険』といい、うまく出版社の思惑にまんまとはまっている気がする。
で、まぁ読んだ訳ですが、現代国語のテストに出てきそうな小説。当然ながら、多少言葉使いが古いため、読みづらい部分もあるけども、そもそもの文章が読みやすいため、さして苦にもならずに読めた。この読みやすさは、自身の体験をモチーフ、あるいはそのまま題材にした内容に加え、あとがきによると、志賀直哉は“眼の作家”と言われているだけあり、叙景的な表現が多いことに起因するのだろう。
読みながら、何度も「何がおもしろいのだろう」と不思議に思った。おもしろくないという意味ではなく、おもしろい理由がよく分からない…。一通り、読み終えてから、ざっと読み返してみて思ったことは、基本的に志賀直哉の小説では、叙情的な心理描写はほぼない。が、叙景的な文章に差し込まれる登場人物の言葉には、人生の機微を感じる。露骨にそこを描かれるよりも、さりげなくそれを感じるあたりにくすぐったさがあって、そこがおもしろいのだろう。
本・書籍 ブログランキングへ